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いろんな事にくじけそうになりながら、毎日一生懸命生きてる小さな兎のヒトリゴト。
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以前、西洋思想の授業でプラトンの人間球体論の話を聞いたことがある。人間は元々二つの頭と4本の手足をもっていて、それぞれ2つの意思を持ち、仲良く暮らしていたとかなんとか。イメージとしては人間が二人背中合わせにくっついているような状態。これ、もしかしたら昔ブログ記事にしたかもw 知ってるぞ!という人は思い出しながら読んでみてください。
さて、この説には色々な解釈があるようで、背中合わせの人間が強力な力を持ち始めた故、神が恐れて分断してしまったという説と、背中合わせの人間があまりに仲良く暮らすものだから、神が嫉妬して分断してしまった という説の二つを聞く。ちなみに私が授業で聞いたのは前者だった。
また、背中合わせ人間の性別も、男-男、男-女、女-女、の3種類があったらしく、決して男女の組み合わせだけではなかったそうです。


ほいでですね、なんで今更になってこんな話をしだしたかというと、以前読書草紙のカテゴリで書いた『葬儀の日』(著:松浦理英子)と、少し共通点があるなと今更ながら思ったからです。
絶対に触れることの出来ない、かけがえのない自分の対岸。松浦さんは、河を隔てた岸同士の関係の比喩を使っていたけれど、これって人間球体論に似ていると私は思ったんです。


『葬儀の日』一部抜粋
 一本の川の右岸と左岸を想像してみて下さい。そうした関係です。
「わかりませんね。」
 そうでしょうね。
 このインタヴィューはまだ終わらないのですか?
「あなたたちは知り合いに違いないんだ。どうしてそういわないんです?」
 川の右岸と左岸は水によって隔てられている。同時に水を共有し水を媒介として繋がっている。あるいは水によって統合されている。また、別の観点から言えば、川の一部、川に属するという意味で、二つの岸は同じものではないにしても全く異なるものでもない。
 いずれにせよ、二つの岸は川の両端にあります。で、ある日突然、お互いに対岸の存在に気が付いたとします。いったいどうするべきでしょう?走って逃げ出すことは不可能です。無視を決め込んでそのまま何食わぬ様子で在り続けることはできます。もう一つ手があります。自らの体である土を少しずつ切り崩していって、水の中に進入し、対岸に達しようと試みることです。とても時間がかかるし、洪水などによる自然変動に妨げられることもあるでしょう。それでもいつか水を呑みつくすことになるかもしれません。
「二つの岸はお互いを欲しているのか。」
 だって両岸がないと川にならないじゃありませんか。そして、そのことから、ある問題が生じます。二つの岸がついに手を取り合ったとき、川は潰れてしまってもはや川ではない。岸はもう岸ではない。二つの岸であったものは自分がいったい何者なのかわからなくなってしまう。それで苛々するんです、進むべきか渋滞し続けるべきか。いずれにせよ甲斐の無いことではないか、とも。
「川とは何です?」
 私たちもそれを知りたいのです。



そこにあることがわかっていて、尚且つ自分の片割れだという事もわかっていて、けれど手を伸ばして一つになろうとすると、自分が自分でなくなってしまう。もしくは、手が伸ばせない。この状態って、人間球体論にも似たようなことが言える。背中合わせにくっついているから、自分の片割れがそこにいるということはわかるけど、直接顔を見ることは出来ない、抱きしめあうことも出来ない。自分と同じ存在であるが為に、他人として触れる事ができない。自分の意思も手足も、片割れとは違うのに、自分と一番近い存在だからこそ、触れることが許されない。凄く残酷だけど、凄く納得がいく。
よく、「結婚は二番目に好きな人としなさいよ」といわれる。一番好きな人が自分の片割れなのだとしたら、それは最もな言葉だとおもう。分断されたとはいえ、かつての自分の片割れを捜し求める人間が、本当に自分の片割れに出会ってしまったら、きっと融合してしまって自分らしさを失ってしまう。だけど、自分の片割れに最も近い人に出合った場合、完全には融合しない。だから自己を保っていられる。
人によっては、結婚を「結魂」と書いて神聖視している方もいらっしゃるようですが、本当の自分の片割れと「結魂」することは凄く痛くて辛いことだと私は思います。『葬儀の日』でいうならば、自らの体である土を切り崩していって、水の中に進入し、対岸に達しようと試みる行為と似ているからです。



お互いに欲しているのに、触れることすらできない。触れていると自分が自分でなくなってしまう。
こういう相手に出遭った事がない人は凄く幸せだとおもう。同時に長生きできるだろうな、とも思う(笑)。
きっと、出会わないのがレギュラーで、出会ってしまうのがイレギュラーなのだ。

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